ウィキペディア図書館に招待された話

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先日、Wikipedia を編集していたらいきなり「おめでとうございます!ウィキペディア図書館の利用資格を取得されました。」という案内が通知されました。

2022/02/03 に通知がきました。

いきなり現れたので面食らったのですが、どうも有償ジャーナルが閲覧できる権利が得られたようなので、何が起きたのかまとめておきます。

ウィキペディア図書館とは

インターネットを探してもあまり日本語の情報がなく、どうやら最近(日本人向けには?)サービスが始まったようです。

ウィキペディア図書館はオープンな研究ハブであり、アクティブなウィキペディア編集者がきわめて重要な典拠情報にアクセスする場所として編集者自身の作業に欠かせず、また、これら情報源の利用を介して百科事典の改善に必要な支援を受ける場所でもあります。本プロジェクトの狙いは情報源へのアクセスと利用を無料で、簡単に、協調して、効率よく提供することです。

ウィキペディア図書館

「本プロジェクトの狙いは情報源へのアクセスと利用を無料で、簡単に、協調して、効率よく提供すること」とあるように Wikipedia の編集者に向けて出典情報を閲覧できるようにすることが目的のようです。

以下は「ウィキペディア図書館について」の文章です。

ウィキペディア図書館 (The Wikipedia Library) は活動中の編集者の皆さんに信頼性が高い広い範囲の有償 (ペイウォール) 情報源に無料で利用できるようにします。

このプラットフォームは中心的なツールとして、申請を審査し加盟コレクションへのアクセス権を設定するために使われます。ここで応募できる提携組織、その掲載内容を確かめたり、希望先に応募したり承認されたアクセス権を利用したりできます。

コレクションによっては、「コレクションにアクセス」というボタンを押す、もしくはページ上部の「検索バー」を利用すると、誰でもすぐに利用できるものがあります。そのほかに、事前に利用申請を求められるコレクションがあり、利用資格を得ると直接、利用できる場合と、個別のログインぺーじもしくはアクセスコードを利用する場合があります。ボランティアのコーディネーターはウィキメディア図書館と守秘義務契約を結び、皆さんの無料アクセス権設定のため、申請の審査について出版社と協力します。利用申請が不要な掲載内容もあります。

ウィキペディア図書館について – ウィキペディア図書館

閲覧可能な資料(コレクション)は複数あり、申請が通れば有名な学術雑誌 Nature も読むことができるようです。

閲覧可能な資料

2022 年 2 月現在、38 種類のコレクションが申請なしで、申請如何によって 60 種類のコレクションが利用可能のようです。その一部を並べてみます。

  • Annual Reviews
  • Cambridge University Press
  • Edinburgh University Press
  • Electronic Enlightenment
  • Foreign Affairs
  • Gale
  • MIT Press Journals
  • Nature
  • OECD Data
  • OECD Multimedia Gallery
  • Oxford Art Online
  • Oxford University Press Journals
  • Oxford Research Encyclopedias
  • SpringerLink
  • Wiley

ここに挙げたものはほんの一部です。これらのひとつひとつの電子版だけでも、年間購読料が数万円から十数万円するものが無料で利用できるので大変魅力的です。

コレクション一覧ページ

普通はこういうものは大学などが組織として契約する場合が多く、そういった教育機関に所属していないとなかなか個人では高額すぎて購読できないのですが、これが個人で利用できるのはかなり太っ腹だと考えます。

利用可能な範囲

アクセス権を取得したら何をしたらよいですか?」にはこう書かれています。

認可された編集者はアクセス権を使って次の活動が認められています

・提携組織のコンテンツを検索したり、閲覧や取得、表示をする
・提供組織のコンテンツを電子的に保存すること
・提携組織のコンテンツを1部のみプリントアウトする

アクセス権を取得したら何をしたらよいですか?

コンテンツの閲覧はもちろん、ダウンロードすることや 1 部に限りプリントアウトすること[1]英語原文を読むと “single copy" と書いてあるので、「一部分」の意味ではない。1 部だけ。まで認められています。結構すごいと思います。

なお注意書きには「図書館や所属機関などで購読できるかどうかを確認して、購読可能な場合は他のユーザのために申請するのは控えてください」と書いてあります。最初から申請なしで読めるコンテンツはともかく、申請が必要な資料は場合によっては遠慮してくださいということですかね。多分申請枠が決まっているのでしょう。

利用開始条件

アクセス権を受けられるのはどんな人?」のところに利用できる条件が挙げられています。

  • 登録から6ヶ月以上が経過したアカウントであること
  • ウィキメディアのプロジェクト群で500回以上の編集履歴があること
  • 直近1ヶ月に10回以上編集していること
  • 現状でウィキメディアのいずれのプロジェクトでもブロックを受けていないこと

自分のアカウントの統計情報や Wikimedia プロジェクトのグローバルアカウント情報を見ると以下のとおりでした。

  • 2016 年 9 月 21 日に登録(登録から 64 ヶ月)
  • 558 回の編集
  • 最近一ヶ月(2022 年 1 月以降で)4 回の編集
  • これまでアカウントのブロックなし(荒らし行為などしていない)

明らかに 3 番目の条件がクリアできていない気がします。通知がきたときの 10 回前の編集は 2021 年 9 月 23 日で 5 ヶ月前のことでした。ちょっとよくわかりません。Mediawiki や英語版などにも投稿したことがあったので、オマケしてもらえたのかもしれません。

2022/10 追記

しばらくして確認したら画像のように利用権限が止まっていました。

流石に編集回数がちゃんとチェックされるようになったようです。まあこれは真っ当な判定ですね。

Wikipedia を編集するインセンティブになるか?

すごいすごいと思っていますが、正直これが嬉しいと感じる人がどれほどいるのかはよくわかりません。少なくとも日本語版ウィキペディアにおけるほとんどの編集はアニメなどのサブカルチャーの記事が中心らしいということを考えると、既存のユーザにとってはあまり楽しくないかもしれません。英語論文ばかりだし。

しかし、自然科学、社会科学、人文科学などの記事を書く人にとってこれほどありがたい特典はないと思います。多くの記事に適切な出典情報を載せられることが期待できます。多くの人が Wikipedia から情報を拾うことが珍しくない今、適切な出典情報を元にしたよりよい記事に誰でもアクセスできる状態にしておくことは重要だと思います。

また今現在は英語情報ばかりですが、もし日本の出版社などが入ってきたら、日本語話者にとってはかなり魅力的になると思います。個人的にはどこかの新聞社のデータベースがみられるようになると嬉しいんですが、どうなんですかね。

コレクション一覧

以下に並べるのは 2022 年 2 月時点で申請なしで利用可能なコレクションの一覧です。説明書きはコレクション一覧ページに書いてあったものです[2]Wikipedia 同様に、これらも利用者によって翻訳されたもののようです。

  • Al Manhal[3] … Continue reading
  • Alexander StreetPress[4]Academic Video Onlineコレクションには、ニュース番組、音楽と演劇、講義と実演、ドキュメンタリーなど、さまざまな主題分野のビデオが含まれます。 … Continue reading
  • アメリカ人名事典(ANB)[5]すべての時代と社会階層の、アメリカの形成に寄与した1万8700人以上の男性と女性の肖像画を提供します。
  • アメリカ精神医学会[6]PsychiatryOnlineへのアクセスにより、精神医学分野のトピックに関する本やジャーナルを提供しています。
  • Annual Reviews[7]科学および社会科学の総説の発行元です。この提携により、先方の収蔵するジャーナル集全てにアクセスできます。
  • The Central and Eastern European Online Library(中欧および東欧オンライン図書館)[8] … Continue reading
  • Cairn.info[9] … Continue reading
  • Cochrane(コクラン)[10]Cochrane … Continue reading
  • De Gruyter[11]学術文献を専門とする専門出版社です。アカウントはDe Gruyter … Continue reading
  • EBSCO Information Services[12] … Continue reading
  • Edinburgh University Press(EUP=エディンバラ大学出版局)[13]人文科学および社会科学の書籍やジャーナルの学術出版社です。 … Continue reading
  • Electronic Enlightenment(EE)[14]17世紀初頭から19世紀半ばの書簡を編纂した、最も広範囲にわたるオンラインコレクションです。 … Continue reading
  • Foreign Affairs[15]アメリカのジャーナルで、国際関係とアメリカの外交政策が対象です。無料の購読を提供し、Foreign … Continue reading
  • Gale(ゲール)[16]アメリカの教育出版社で、非常に大規模な複数の研究データベースを提供します。アクセスはGale Academic OneFile、Gale General OneFile、Gale eBooks、Gale … Continue reading
  • HeinOnline[17]画像ファイルに基づく法学専門誌および法学史に関するその他のリソース2000件超のデータベースです。
  • ICE Publishing[18]イギリス土木学会に属しています。ICE仮想図書館に収蔵されたすべてのジャーナルと電子書籍へのアクセスを提供します。
  • JSTOR[19] … Continue reading
  • Nomos[20]学術出版社です。Nomos eLibrary … Continue reading
  • OECD Data[21]OECD Data is a repository of charts, maps, tables, and related publications published by the Organisation for Economic Cooperation and Development (OECD).
  • OECD Multimedia Gallery[22] OECD Multimedia Gallery is an audio-visual gallery containing podcasts and photos published by the Organisation for Economic Cooperation and Development (OECD).
  • OECD iLibrary[23]オンライン図書館 OECD iLibraryは、経済協力開発機構(OECD)が発行する書籍、論文、統計などのオンライン図書館です。
  • OpenEdition[24] … Continue reading
  • Oxford Art Online[25]オックスフォード大学出版局の美学参考書へのアクセスを提供します。対象にはGrove Art OnlineとBenezit Dictionary of … Continue reading
  • Oxford Bibliographies[26] … Continue reading
  • Oxford Dictionary of National Biography(ODNB)[27]イギリスの歴史と文化を世界中で形作った全国の男性と女性を、ローマ時代から21世紀までまとめた記録です。 … Continue reading
  • Oxford Handbooks Online[28]学術的な書評エッセイの提供により、特定の分野や主題に関する現在の考え方の評価や、議論の将来の方向性について独自の議論を行います。
  • Oxford University Press Journals(オックスフォード大学出版局ジャーナル)[29]さまざまな主題を含みます。
  • Oxford University Press Law(オックスフォード大学出版局法学部門)[30]国際法に関連するリソース集を提供します。
  • Grove Music Online Grove Music Online[31]Grove’s Dictionary of Music and Musiciansの第8版であり、このサイトのために特別に委託された記事が含まれています。 Grove Music … Continue reading
  • Oxford Reference[32]オックスフォード大学出版局の辞書類やコンパニオン、百科事典全体で200万の電子化した項目をまとめています。
  • Oxford Research Encyclopedias[33]オックスフォード調べ物百科事典はさまざまな学問分野について、査読済みの長文の概論の論文をまとめています。
  • Oxford Scholarship Online (OSO)[34]学術研究への全文アクセスを提供し、対象は人文科学、社会科学、科学、医学、法学の主要分野です。
  • Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)[35]学際的な科学ジャーナルであり、アメリカ科学アカデミーの公式ジャーナルです。
  • ProQuest[36]学際的な研究の提供者です。このアクセスの対象である『ProQuest Central』にはジャーナルや新聞の大規模なコレクションとして『Literature Online』『HNP … Continue reading
  • Wiley[37]Wiley offers collections of online journals, books, and research resources, covering life, health, social, and physical sciences.
  • Women Writers Online[38] … Continue reading
  • World Bank eLibrary[39] … Continue reading

脚注

脚注
1英語原文を読むと “single copy" と書いてあるので、「一部分」の意味ではない。1 部だけ。
2Wikipedia 同様に、これらも利用者によって翻訳されたもののようです。
3主要なアラビア語プロバイダーとして電子ジャーナルや論文、電子書籍全文を提供します。そのeLibraryには、さまざまな主題分野にわたる約3万6千件の出版物を収めています。
4Academic Video Onlineコレクションには、ニュース番組、音楽と演劇、講義と実演、ドキュメンタリーなど、さまざまな主題分野のビデオが含まれます。 Women and Social Movements Library(女性と社会運動ライブラリー)は、女性の運動に関する一次資料文献と学術論文で構成されています。
5すべての時代と社会階層の、アメリカの形成に寄与した1万8700人以上の男性と女性の肖像画を提供します。
6PsychiatryOnlineへのアクセスにより、精神医学分野のトピックに関する本やジャーナルを提供しています。
7科学および社会科学の総説の発行元です。この提携により、先方の収蔵するジャーナル集全てにアクセスできます。
8人文科学と社会科学のさまざまなジャーナルや電子書籍の発行元です。アクセスは1700件超のジャーナルが対象ですが、現在は電子書籍は含みません。
9 学術資料のオンラインポータルです。主な研究分野とはコミュニケーション、教育学、地理学、歴史学、文学、言語学、哲学、政治科学、法学、心理学者、社会学、文化研究が含まれます。
10Cochrane Libraryへのアクセスを提供します。6つのデータベースは、医療分野の主題に関する系統的レビューと査読および評価データベースで構成されます。
11学術文献を専門とする専門出版社です。アカウントはDe Gruyter Onlineを通じて利用できるすべての電子リソースにアクセスでき、対象には美学、人文科学、社会科学、自然科学、神学/宗教学、医学、数学、法学および一般的な参考文献に関する電子書籍やジャーナルが含まれます。それらには、英語、ドイツ語およびその他の複数言語のリソースがあります。
12アメリカを拠点とする図書館リソースおよび情報サービスの主要プロバイダーです。EBSCOとウィキペディア図書館との提携関係には、複数のデータベースへのアクセスが含まれます。
13人文科学および社会科学の書籍やジャーナルの学術出版社です。 EUPは映画とメディア研究、歴史学、文学、スコットランド研究などの主題に関するジャーナル集へのアクセスを提供します。
1417世紀初頭から19世紀半ばの書簡を編纂した、最も広範囲にわたるオンラインコレクションです。 EEを使用すると7万件超の歴史的文書にアクセスでき、これら文書では歴史上の人物8500人超があらゆることについて論じ、宗教の寛容から動物の権利、火山学から古典考古学、経済モデルから有名人文化まで及びます。
15アメリカのジャーナルで、国際関係とアメリカの外交政策が対象です。無料の購読を提供し、Foreign Affairs誌、電子書籍およびアーカイブ90年分超のへのアクセスを提供します。
16アメリカの教育出版社で、非常に大規模な複数の研究データベースを提供します。アクセスはGale Academic OneFile、Gale General OneFile、Gale eBooks、Gale OneFileはニュース、Gale In Contextは伝記、Gale Primary Sources(一次資料)、NewsVault、The Times Digital Archiveが対象です。
17画像ファイルに基づく法学専門誌および法学史に関するその他のリソース2000件超のデータベースです。
18イギリス土木学会に属しています。ICE仮想図書館に収蔵されたすべてのジャーナルと電子書籍へのアクセスを提供します。
19量も評判も世界最高のジャーナルのアーカイブのひとつです。現在、ウィキペディア図書館利用者に提供されるコンテンツには、JSTORが保管するジャーナルの全ての号ならびに「19世紀小冊子コレクション」19th Century British Pamphlets collection です。
20学術出版社です。Nomos eLibrary を通じて利用可能なすべての電子リソースへのアクセスを提供し、芸術、人文科学、社会科学、法学、一般的な参考文献の電子書籍やジャーナルがあります。それらは主にドイツ語のリソースであり、英語のリソースも含まれます。
21OECD Data is a repository of charts, maps, tables, and related publications published by the Organisation for Economic Cooperation and Development (OECD).
22 OECD Multimedia Gallery is an audio-visual gallery containing podcasts and photos published by the Organisation for Economic Cooperation and Development (OECD).
23オンライン図書館 OECD iLibraryは、経済協力開発機構(OECD)が発行する書籍、論文、統計などのオンライン図書館です。
24社会科学と人文科学の本とジャーナルの出版社です。OpenEditionのコンテンツのほとんどはオープンアクセスですが、それに加えて通常はペイウォールを設けているFreemium forJournalsのジャーナル140件へのアクセスを寄付しています。
25オックスフォード大学出版局の美学参考書へのアクセスを提供します。対象にはGrove Art OnlineとBenezit Dictionary of Artistsのほか、オンラインでのみ入手可能な多くの特別に委託された記事や参考文献が含まれます。Oxford Art Onlineには画像2万件超と、芸術と芸術家に関する23万件超の項目があります。
26権威のある研究ガイドとして、注釈付きの参考文献目録とハイレベルの百科事典の機能を組み合わせてあります。研究者を対象に、広範な主題の入手できる最高の学識へ導きます。
27イギリスの歴史と文化を世界中で形作った全国の男性と女性を、ローマ時代から21世紀までまとめた記録です。 ODNBは、専門の執筆者によって簡潔に書かれた最新の伝記を提供します。イギリスのオックスフォード大学の学術編集者の監修を受けます。
28学術的な書評エッセイの提供により、特定の分野や主題に関する現在の考え方の評価や、議論の将来の方向性について独自の議論を行います。
29さまざまな主題を含みます。
30国際法に関連するリソース集を提供します。
31Grove’s Dictionary of Music and Musiciansの第8版であり、このサイトのために特別に委託された記事が含まれています。 Grove Music Onlineには10万件超の項目があり、その範囲は音楽家の経歴から楽器の物理的構造や組み立てにわたります。
32オックスフォード大学出版局の辞書類やコンパニオン、百科事典全体で200万の電子化した項目をまとめています。
33オックスフォード調べ物百科事典はさまざまな学問分野について、査読済みの長文の概論の論文をまとめています。
34学術研究への全文アクセスを提供し、対象は人文科学、社会科学、科学、医学、法学の主要分野です。
35学際的な科学ジャーナルであり、アメリカ科学アカデミーの公式ジャーナルです。
36学際的な研究の提供者です。このアクセスの対象である『ProQuest Central』にはジャーナルや新聞の大規模なコレクションとして『Literature Online』『HNP Chinese Newspaper Collections』『Historical New York Times』が含まれます。
37Wiley offers collections of online journals, books, and research resources, covering life, health, social, and physical sciences.
38初期の女性による英文の著述の全文コレクションです。WWOには、女性の執筆の研究を支援する1526年から1850年にかけて出版された350以上の文献の完全な転写、特に稀またはアクセスできない資料、加えてエッセイのような文脈など他の資料が含まれます。
39世界銀行の書籍やワーキングペーパーならびにジャーナル記事の購読制オンラインWebポータルで、貧困や開発、社会科学に関連する主題を扱います。