北海道大学のクラーク像はオープンデータになりうるという話

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(この記事は 2019/11/11 に Qiita へ掲載した記事を再掲載したものです。)

みなさん「クラーク像」知ってますか。北海道大学で教鞭を執り、"Boys be ambitious!" の言葉で有名なあの人の像です。ここではクラーク像が実は自由に使えるんだ、という話をします。

クラーク像とは

まずはじめにここで扱うクラーク像についてはっきりさせておきます。実はクラーク像は複数体あり、一番有名な腕を突き出している像は札幌駅から車で 20 分ぐらい離れた「羊ヶ丘」というところにあるのですが、今回は北海道大学構内ロータリー前にある胸像のクラーク像の話です。(以下、これを「クラーク像」とします)

クラーク胸像
大学構内にある胸像、実は学内には全部で 5 体ある

もともとクラーク像は北大構内にある胸像のものが最初なのですが、それを見るために学内に観光バスが押し寄せる事態となったことがきっかけで、1976年に羊ヶ丘にクラーク像を作ったのだそうです。(参考: クラーク像 – Wikipedia

羊ケ丘クラーク像
羊ヶ丘にある方のクラーク像

著作権法におけるクラーク像の扱い

著作権法からみた立ち位置

まず著作権法について確認します。クラーク像は(2019 年現在のところ)自由に出入りできる北大構内において、屋外に恒常的に設置されている銅像であるため「公開の美術の著作物」として著作権法四十六条が適用されるはずです。

(公開の美術の著作物等の利用)
第四十六条 美術の著作物でその原作品が前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置されているもの又は建築の著作物は、次に掲げる場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。
一 彫刻を増製し、又はその増製物の譲渡により公衆に提供する場合
二 建築の著作物を建築により複製し、又はその複製物の譲渡により公衆に提供する場合
三 前条第二項に規定する屋外の場所に恒常的に設置するために複製する場合
四 専ら美術の著作物の複製物の販売を目的として複製し、又はその複製物を販売する場合

これらより、いわゆる個人の利用範囲内であれば写真をとったり色々しても問題ありません。ただし複製して販売したりするような行為は許されていません。

著作権のイメージ

著作権保護期間

クラーク像の制作者

クラーク像は 1926 年(大正 15 年)に田嶼碩朗という彫刻家によって原型が作られました。同氏は 1946 年に死去しており、死後 50 年以上経過しているため、著作権による保護期間は過ぎています。(2018 年末より TPP 加入によって著作権の保護期間が死後 70 年に延長されましたが、それ以前に保護期間が切れているため問題ありません)

一応書いておくと、現在のクラーク像は「2代目」です。1943 年に太平洋戦争に伴う金属類回収令によって供出されてしまったので、1948 年に彫刻家の加藤顕清によって田嶼碩朗氏の石膏原型を用いて再鋳造されました。いずれにせよ、複製されただけであり、著作者はあくまで田嶼碩朗氏と考えられるため、保護期間は過ぎていると考えて差し支えないでしょう。




以上より、クラーク像はすでにパブリックドメインになっており、自由に利用しても問題なさそうです。これに対して、一番有名な「羊ヶ丘のクラーク像」は制作者の坂坦道が亡くなったのが 1998 年であり、まだ著作権法上で保護されているため、勝手に二次著作物を作って個人を超える範囲で利用してはいけません。

いらすとやクラーク像
このイラストってどうなんだろう……?

著作権の譲渡の有無

しかし、あくまでクラーク像は北海道大学の中にあり、著作権が大学に譲渡されている可能性がありました。もし譲渡されていれば、権利は北海道大学にあり、勝手に写真を撮って販売したりすることなどはできません。

大学広報課へ問い合わせ

この件について北海道大学の広報課に問い合わせました。電話での問い合わせのため、記録には残っていませんが、広報課の回答をまとめると以下の通りです。

電話する男性

「クラーク像の著作権が北海道大学へ譲渡されている事実はあるか」
大学「そのような記録はない」
「クラーク像の著作権の保護期間が終了しているが、現在 (当時 2016 年) はパブリックドメインになっている認識で良いか」
大学「北海道大学は認知していない」
「クラーク像について二次著作物を制作し、販売等することは可能か」
大学「販売に関しては北海道大学が公式に扱っているものと捉えられかねないので、事前に相談して欲しい」
「販売等に関して事前に相談することは検討してもよいが、著作権が譲渡されていないため、そのような活動を妨げる権利が北海道大学にないことは確かであるか」
大学「確かであるが、相談はしてほしい」

したがって、以上の事をまとめれば、クラーク像はやはりパブリックドメインであり、クラーク像を使って何かを作ったり、それを販売することは可能ということになります。(ただし「北海道大学」の名前を用いることは避けた方が賢明でしょう。大学の名称を用いると大学に対してロイヤリティが発生する可能性があります)

クラーク像を作る

クラーク像の写真をとって 3D 点群データを作ってみました。生データを mkuriki1990/pointclouds_clark – GitHub にあげています。Potree を利用してここから動かしてみることもできます。。これらのデータは CC BY-NC-SA 4.0 でライセンスしています。

potree_screenshot.png
ブラウザ表示(グリグリ動かせる!) : https://mkuriki.com/Potree/examples/clark.html

以前より観光的に有名な羊ヶ丘のクラーク像をモチーフにしたグッズはありましたが、北大構内の胸像をモチーフとしたものはほとんどなかったので、3D プリンタで出力してみました。実際に出力してみたクラーク像フィギュアは北海道大学総合博物館内のミュージアムショップ「ぽとろ」にて販売しています。

クラーク像フィギュア

まとめ

  • 屋外の公園にあるような「公開の美術の著作物」は個人の利用範囲内において自由に使える
  • 制作者の死後一定期間経過するとパブリックドメインとなるため、営利目的含め自由に使える
  • 北大構内ロータリーのクラーク像は北海道大学への権利移譲もないので、パブリックドメイン

参考資料

使用例

(2020/02/05 追記)
この記事を公開した直後(2019/11/19)にとある北大生が遊んでくれたので紹介しておきます。FBX, OBJ, PLY の形式で吐き出してくれたそうです。
GitHub : https://github.com/Tsurumiya/Clark_3D
Twitter で報告を受けました : https://twitter.com/Rance_Ren/status/1196534480556544000

clark_image_scale.png
(By Tsurumiya, CC BY-NC-SA 4.0)