任天堂の新卒採用のESと試験と面接の話

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村橋がかつて大学院生(修士 2 年生、2015 年)のころ、就活生として任天堂を受けてみたときの話です。任天堂は志望順位としては第一志望でしたが、あえなく技術面接で落ちました(受かっていたら博士進学をしていなかった)。エントリー、会社説明会、エントリーシート提出、Web 適性検査、1 次面接(筆記試験)の結果をメモしておきます。

任天堂にエントリーすると送られてくる 2016 年卒向け会社説明パンフレットの外箱。歴代のロゴマークやロゴタイプがあしらわれている。

私が経験した採用スケジュール

まず、私は以下のような流れで採用試験の段取りが進みました。

  • 2015/03/01 任天堂公式の新卒採用サイトでエントリー
  • 2015/03/26 会社説明会(理工系ソフトウェア)に参加(東京ビッグサイト)
    • このとき、当時の岩田聡社長のビデオメッセージを見ました。07/11 に亡くなる直前のメッセージだったのだろうと推察します。
  • 2015/06/30 「総合職コース 理工系」エントリーシート提出(提出可能期間 06/17 09時 ~ 06/30 18時)
  • 2015/07/01 Web 適性検査受験(受験可能期間 06/22 09時 ~ 07/01 18時)
  • 2015/07/23 理工系一次面接・筆記試験への参加案内のメール受領(受験会場及び日時の希望調査)
  • 2025/08/05 一次面接・筆記試験(理工系)参加(13:50 〜 16:00)
  • 2025/08/17 不採用のお知らせメール受領

2015 年当時、新卒採用活動は、経団連が採用活動に対する指針「採用選考に関する企業の倫理憲章」に則って行われていました<ref>新卒採用スケジュールの変遷</ref>。2013 年 – 2015 年卒を対象とした新卒採用では「03/01 広報活動開始、06/01 選考活動開始」というスケジュールでした。しかし採用活動時期が早すぎる、というような世論を受けた政府の要請により 2016 年卒を対象とした採用活動は「03/01 広報活動開始、08/01 選考活動開始」とこれまでで最も遅い時期の選考活動開始となった年でした<ref>8 月開始だったのはこの年だけで、翌年からはまた 6 月に戻ったので、なんとなく振り回されてしまったなあという感想をもっています。任天堂の採用試験とは関係ないですが。</ref>。

採用カテゴリ

私が受験した総合職コースには以下の通りの系統がありました。

  • 事務系
  • 理工系
  • デザイン系
  • サウンド系
  • 制作企画系

私はプログラマー枠で応募しようとしていたのでシンプルに「理工系」で受験しました。いわゆる「ゲームづくり」の職として一番人気なのは「制作企画系」らしく、こちらの方が応募者も多いそうです。

任天堂の 2016 年卒向け会社説明パンフレットの表表紙。デザイナーの新入社員が毎年オリジナルで作るらしい。

会社説明会

会社説明会は東京ビッグサイトで行われました。大勢のスーツ姿の学生があつまり、私もその一人でした。あまり細かい内容を覚えていませんが、最初は大きなホールに集められて、会社概要の説明を受けました。その中で当時の岩田聡社長のビデオメッセージが流れました。岩田聡氏はこのあと 07/11 に亡くなってしまったので、新卒採用の会社説明会に向けたメッセージとしては、これが最後だったのだろうと勝手に感慨深く思っています。

全体説明会が一通り終わった後は採用系統ごとに別れて説明会がありました。その中では 10 人程度のグループに分かれて先輩社員との懇談会が開かれました。当時、ピクミンの開発現場に携わった CG プログラマの人に話していただいた記憶を覚えています。私も何かしら喋ろうと、ピクミンにおける水面表現に大変感動した話などをしておりました。

エントリーシート提出

エントリーシートは当時からウェブ上から登録する形でした。あらかじめ下書き用の Word ファイルが配られ、あらかじめそれに記入しておいてからウェブ上の入力フォームから回答するようになっていました。内容としては

  • 学生時代に取り組んだことに関して
  • 小中高校生をどのように過ごし、それが今の自分らしさに繋がっているかということに関して
  • 専攻している分野に関する研究テーマや技術分野に関して

などでした。印象的だったのは「小中高の過ごし方から見る自分らしさ」を答えさせられたことだったことを覚えています。

当時実際に提出したエントリーシートの下書きの内容については、長くなるのでこの記事の最後の方に書いておきます

Web 適正検査

エントリーシート提出と同じようなタイミングでウェブ適性検査を受験しました。適性検査はいわゆる「玉手箱」方式でした。玉手箱方式は選択肢(普通 4 択)のある問題が出題され、一問回答するともうその問題を回答する(答えを変更する)ことはできず、次の問題が出てくるというものです。言語、計数、英語の 3 科目について試験がありました。

私はそもそも博士課程進学を前提におきつつ、もし受かったら任天堂に行ってみたいというある意味中途半端な動機で応募していたこともあり、ろくに用意をせずに挑んだこともあって非常に苦労しました。特に英語については当時のセンター試験<ref>2025 年現在でいう大学入試共通テスト</ref>ぐらいレベル感の 2, 3 パラグラフ程度の文章があり、これに対して文形式の設問、文形式の選択肢を選ぶ設問が 2, 3 問でてくるという仕様のため、大変難しく、泣きそうになりながら解いたのを覚えています。加えて問題なのは時間で、ちゃんと全部解凍しようとすると 2 分程度で 2, 3 パラグラフの英文を読み、30 秒ほどで設問と選択肢を読んで回答するようなスピード感を求められたので、とても印象に残っています。

任天堂の 2016 年卒向け会社説明パンフレットの裏表紙。こちらは主にビデオゲーム機のロゴが並ぶ。

1 次面接・筆記試験

エントリシートの提出と適性検査を受験した結果、まずは 1 次面接に呼んでいただけることになりました。まずはこのメールで一旦安堵したことを覚えています。面接会場は東京と大阪から選ぶことができました。私は当時札幌から受けることにしていたので、東京での試験を希望しました。ちなみにこのとき交通費は出ませんでした。たまたま他社の採用活動のため、交通費を頂戴して東京に向かうタイミングだったので、結果として負担は大きくありませんでしたが、札幌を含めた地方から受験することを考えると、少し辛い条件だと思います。

当日の服装は「クールビズ(ノーネクタイ、ノージャケット)」との指定がありましたが、なんだかんだジャケットもネクタイもしていったと思います。持ち物としては筆記用具と成績証明書(学部のものと修士のもの)が指定されていました。

正直筆記試験の内容はあまり覚えていません。私はプログラマーの採用枠で受験したはずなので、プログラミング言語の一般的知識について問われた記憶があります。それよりも問題は実技試験の方でした。

C 言語の実技試験

筆記試験とは別に実際にプログラミングを行う実技試験がありました。私はあまり積極的に就活をしておらず、せいぜい数社しか受けていませんが、それでもプログラミングの実技試験を実施したのは任天堂だけだったので驚きました(周囲の友人に聞いてもそのような試験を実施している企業はなかった)。あまりにも印象的だったので覚えていることを書き連ねておきます。

まず受験者控え会場から 6 人ずつ受験者が呼ばれました。担当者についていくと、 6 台のコンピュータが並んでいる部屋に通され、一人ずつ座るように指定されました。目の前には Windows 10 が起動した状態の PC があり、24 インチ程度のフル HD ディスプレイが 1 台、よくあるフルキーボードとマウスが付いていました。詳細は覚えていませんが、エクスプローラに試験問題と回答内容を保存するためのフォルダがありました。

画面が並んでいる様子のイメージ(この写真は名寄天文台の観測室で撮ったもの)

何より驚いたのは司会役の担当者に加えて、モニタアームで 2 x 3 面に配置されたディスプレイを見続ける担当者がいたことです。実際に試験開始してから気づいたことですが、その担当者はそれぞれの画面を替わる替わる見つづけながら何やらメモを取っていました。おそらく受験者のパソコン操作をリアルタイムで見ているのだと思いました。どういうチェック項目があるのかは想像もできませんが、キーボードショートカットを適切に使えているかとか、ソースコードの編集速度などを見ていたのでしょうか……。

担当者曰く、試験問題のフォルダが 5 つあり、それぞれに問題と回答するための Microsoft Visual Studio のソリューションファイルが入っているとのことでした。制限時間は 30 分で、どの問題から解いてもよい、という指示だったと記憶しています。これらの要領については PC 上のテキストファイルに詳細が記載してありました(なお、緊張感でこの指示をちゃんと頭に入れてなかったことが後に災いしてきます)。

それぞれ問題は以下のようなものでした

  1. for ループを用いるような整数の足し算問題
  2. FizzBuzz のような問題<ref>FizzBuzz – Wikipedia</ref>
  3. フィボナッチ数列<ref>フィボナッチ数 – Wikipedia</ref>のようなものの任意の項を求める問題
  4. (忘れた)
  5. 3 次元空間で指定された 3 点の組みによって成される三角形の面積を求める問題

プログラミングを経験している人ならわかると思いますが、最初は初学者がやるような簡単な問題で、だんだんと問題の難易度が上がっていく形式になっていました。確か標準ライブラリ(math.h とか)は使ってよかったはずです(うろ覚え)。

実際のところ、最初の 2 問は余裕でした。ところが、3 番目の問題でつまづいてしまいました。実際にはこの問題はトリボナッチ数列(フィボナッチ数列と似ていて直前 2 項の和ではなく 3 項の和を使う数列)の任意の項だかを求める問題でした。頭の中ではどういった数列なのか、わかっているけど解き方がすぐに出てこない。フィボナッチ数列を求める問題といえば、再帰関数を使う場合の課題例として頻出なので、当然知っていたはずだし、それを応用すればよいことは想像できているはずなのに手が動きませんでした。ここで変に戸惑ってしまって時間を浪費したことは今でも大変後悔しています。おそらくリアルタイムで見ていたであろう担当者も、こいつはダメだなと思ったことでしょう。

ここでさらに不幸だったことは「問題を順番に解く必要がない」という条件を忘れていたことです。トリボナッチ数列がわからないことに焦って、他の問題を確認できていませんでした。残り 5 分ぐらいになってようやく問題を飛ばしてよいことに気づき、問 4, 5 の内容を確認したのです。

問 5 については解けそうな問題でした。 3 次元ベクトルが成す面積だと捉えればある点を基準としたときの 2 つのベクトルの大きさと内積が計算できれば三角形の面積が求まるため、できると思いました。しかし残り 5 分では落ち着いて取り組むことができず、結局プログラムを完成させることができませんでした。

結果として、30 分で完答は 2 問。大学受験なら普通に落ちてる程度しか答えられませんでした。

任天堂の 2016 年卒向け会社説明パンフレットの中身の一部。製品紹介写真が散りばめられている。

一次面接

最後に面接が設定されていました。ここでは志望動機や、自分が得意なことや経験してきたこと、ES に基づいた話や入社したら取り組んでみたいことなど、一般的なよくある質問がなされました。

加えて、直前に取り組んだプログラミングの実技試験について聞かれました。できなかった問題があれば、もし時間があればどうすべきだったか見解を述べるように言われました。条件を見落としてしまい、順番に解こうとしてしまったこと、再帰関数をちゃんと使えればよかったと思っていること、ベクトル操作の問題に落とし込めば解けただろうこと……を伝えましたが、あまり意味はなかったような気がします。

結果として

残念ながら 1 次面接の段階で不採用となってしまいました。残念でした。

ゲームの話

販売元が任天堂のゲームとして MOTHER シリーズがありますが、MOTHER3 のキャラクター名によって内部処理に工夫があることに気づいた話をまとめたりしました。

参考資料:ES の内容

以下に私が提出した ES の内容をあげておきます。

◼️ ⾃分をアピールできる学⽣時代の取り組みを 3 つ挙げてください
 ・取り組みを⼀⾔で簡潔に表現してください(各 50 ⽂字以内)
 ・期間、かかわった集団の⼈数や結果などを詳しく記⼊してください(各 150 ⽂字以内)

  1. 大学公式の学生寮における自治会運営
    学部の4年間、500人弱の学生が所属する寮の自治会運営に携わりました。この内3年次の半年間は寮長を務め、18名の執行委員を率いて、中心となって寮運営に努めました。寮の管理者である大学との折衝、施設や物品等の把握及び修繕依頼のほか、寮運営にかかる規則の提案、全体での議論、決定、執行などを行いました。
  2. 学生と士幌町自治体で共同管理・運営するロッジを通した町民との交流
    ロッジの運営委員会に断続的に4年間携わっています。委員は20名程度で入れ替わりがあり、累計では100名程度で活動していました。2年次の半年間は委員長を務めました。町自治体や教育委員会と連携し、小学生への学習サポート事業の企画、実施を行い、地域貢献活動として北大えるむ賞を受賞しました。
  3. スマートフォン向けの寮歌、学生歌が閲覧、視聴できるソフトウェアの作成
    所属していた学生寮で毎年作歌されている寮歌や北海道大学の学生歌を視聴できるソフトウェアを開発しました。私自身がプログラムを作成し、掲載データは10名ほどの有志を募って作成しました。また制作に資金が必要だったため、クラウドファンディングを通じて1ヶ月で29名から15万円ほど融資をいただきました。

◼️ 上記の取り組みのうち1つを選んで、次の 1〜3 の項⽬について、記⼊してください
 (選択した取り組みの番号:
1

1.あなたがとった主な⾏動を 2 つ挙げ、それぞれについてどんな考えにもとづいて⾏動したか、あわせて記⼊してください

①あなたがとった主な行動
(100 文字以内)
②どんな考えにもとづいて行動したのか
(100 文字以内)
I学生寮に住んでいる学生自身が主体となって自治会を結成し、規則をつくり、遵守することの意義、重要性について全体で認識するための議論を行い、認識の統率を図った。一つの組織として活動し、維持されていくためには、その組織がどのような意義を持って結成されているのか、各々の構成員が認識し、その上で組織としての統一見解を持つことが必要であると考えたからです。
II大型複合機など生活の利便性が向上するような物品の新規導入、利用形態の策定を行った。導入には利用頻度等を調査し、機器の耐用年数等を考慮した上で将来的な買替え、継続利用を想定して予算や利用料等を設定した。自治会員の利便性を向上させることで、自治会に所属していることのメリットを感じやすくなり、組織の維持につながると考えたからです。またその場かぎりでなく、仕組みを維持する必要もあると考えました。

2.もう⼀度取り組む機会があるとしたら、よりよい結果にするためにどんなことをしたいか、理由とともに記⼊してください(150 ⽂字以内)

寮自治会内部だけではなく、大学全体や地域社会などの外部に対しても組織の存在感を示し、内外から必要とされるような組織作りをしたいと思います。組織を維持していくためには、内部の構成員が組織に所属することのメリットを感じるだけではなく、外部からもその存在が認められるようになることが重要だと考えるからです。


3.これらに通じるあなたらしさを簡潔に表現してください(100 ⽂字以内)

個人ではなく、全体に対して利益となるためにはどのように行動すればよいかを考えています。またできるだけ他に頼らず、自分自身の力で解決していこうという姿勢を持っています。


■以下の年代をどのように過ごしたかを総括し、どのようなところが今のあなたらしさにつながっているか、あわせて記⼊してください(各 100 ⽂字以内)

高等学校文化部に所属しつつも陸上部に負けないようにランニングをしたり、部活紹介で部室の場所を示すためだけに学校の3Dモデルを作成して動画をつくるなど、人と違うことで驚かせようという行動が増え始めました。
中学校3Dモデリングにはまったことで3Dモデルを自由に動かせるプログラムを作成することに興味がわき始めました。またディベートで全国大会に出たことで議論やコミュニケーションをとることの重要性が身につきました。
小学校3年生でゲームボーイの画面を睨んでドット絵をコピーすることにはまり、色の再現など、こだわりや集中力を発揮していました。ゲームデータを自作の表などへ、他人にも見やすくまとめることに努力していました。

■ あなたが専攻している分野、研究テーマについて、具体的に記⼊してください(200 ⽂字以内)

火星大気の対流境界層に関する数値シミュレーションについて研究しています。実際に火星探査機を送る際などに、地表もしくはその付近へ安全に着陸、調査するための気象条件を予測、考察するのに有用な研究です。 特に数値計算の空間的、時間的解像度によって計算結果にどのような変化が現れるかについて研究しています。このような解像度が異なる計算によって生じる現象の有無などについて研究します。

■ あなたの得意な技術分野、当社で活かせそうな知識や経験について、具体的に記⼊してください(200 ⽂字以内)

プログラミングについての知識があります。C、C++、Java、Objective-Cを用いてMicrosoftのDirectXライブラリを利用した簡単な3Dゲーム、プログラミングコンテストへの参加、スマートフォン向けのソフトウェアを作った経験があります。また研究室で管理するLinuxのDNSサーバを運用し、Ruby on Railsを利用したサーバサイドアプリケーションを少し触ったことがあります。

■ 趣味・特技・興味のある⾳楽・映画・書籍・スポーツなどについて記⼊してください(100 ⽂字以内)

広報誌などのフリーペーパーを読むのが趣味です。内容はもちろん、読者アンケートに答えてプレゼントに応募するのも趣味です。スポーツはランニングまたはウォーキングが好きで登山もやっていました。

■ 学外活動(アルバイト・ボランティア・インターンシップなどの経験)について記⼊してください(100 ⽂字以内)

小中学生を対象とした実験授業を小中学校や科学館などで行いました。また高校生向けにテレビ会議システムを用いた遠隔授業の講師を務めました。他に地域の祭りへの出店や運営の手伝いをした経験があります。


■ 任天堂のどのようなところに、はたらく場としての魅⼒を感じるのか、簡潔に記⼊してください(150 ⽂字以内)

人々が驚くような新しいエンターテイメントを提供しているところに強く惹かれました。私自身は人をよい意味で裏切ることをいつも考えています。任天堂にはこのような驚きを生み出すような場が多いと感じており、私がそのような機会に触れ、その中ではたらけることを期待しているからです。

■ あなたがはたらく上で⼤切にしたいと思うことを3つ挙げてください(各 50 ⽂字以内)

  • 何事も面白いことを見つけて楽しいと思って取り組むこと
  • 自分のやることに責任とプライドを持つこと
  • 人は思い込みや行き違いを起こすものなので、しっかりとした意思疎通を図って間違いがないよう努力すること